全米最大のユダヤ人コミュニティ「ニューヨーク」

Jewish in NYC カルチャー
Jewish in NYC

イスラエル (Israel)、ユダヤ教(Judaism)。ハヌカ(Hanukkah)、ロシュ・ハシャナ (Rosh Hashanah)、パスオーバー (Passover)。ホロコースト(Holocaust)、シオニズム (Zionism)、シナゴーグ(Synagogue)。そしてアンネの日記に杉原千畝などなど。ユダヤというキーワードから連想する言葉はたくさんあるでしょう。

しかし、単一民族の国で生まれ育った私たちには、その宗教・歴史的背景は正直よく分からないというのが正直なところではないでしょうか。今回は、こうしたユダヤの主な種類と派閥などについて、少しだけ理解を深める努力をしてみましょう。

ひと括りにはできない「ユダヤ人」

宗教、民族、文化アイデンティティで繋がるコミュニティ

ユダヤ人を大きく分けると…1.ユダヤ教を信仰し、その教えや習慣を守る「宗教」での繋がりを持つ人々。2. ユダヤ人としての血筋を持ち、共通の祖先や文化的伝統を共有する「民族」での繋がりを持つ人々。そして、3.宗教的ではなく、ユダヤ人の歴史やヘブライ語、イディッシュ語などの言語、伝統を受け入れる「文化的アイデンティティ」によって繋がる人々。この3種いずれかに分けることができ、これらのユダヤ人コミュニティに属する人々が「ユダヤ人」と呼ばれることになります。

アメリカでの最大勢力は「アシュケナージ系」

上記の分類が最も一般的な分類ですが、それとは別に、アシュケナジム、セファルディム、ミズラヒなど、「歴史的、地理的背景」などでの分類も重要です。

まず真っ先に挙げられるのが、ユダヤ人の2大祖先グループのうちの1つ「アシュケナジ系ユダヤ人(Ashkenazi Jews)」。彼らは、フランス、中央ヨーロッパ、東ヨーロッパ(ドイツ、ポーランド、ロシアを含む)に祖先のルーツを持つユダヤ人の子孫です。改革派、保守派、正統派との関わりが深く、アメリカに住んでいるユダヤ人のほとんどは、この「アシュケナージ系」となります。

そうして、2大祖先のもう1つのグループが「セファルディ系ユダヤ人(Sephardic Jews)」です。彼らは、スペイン、ポルトガル、北アフリカ、中東にルーツを持つ祖先を持っています。シリア、ペルシャ、ブハラ系ユダヤ人のコミュニティも含まれており、ニューヨークにおいては、ブルックリンのフラットブッシュやミッドウッド、クイーンズに多く暮らしています。

ユダヤの教えに基づく強い「絆」

他にも、北アフリカや中東出身のユダヤ人で、セファルディ伝統と重なる場合が多い「ミズラヒ系ユダヤ人(Mizrahi Jews)」や、ソビエト連邦崩壊後に移住し、ブルックリンのブライトンビーチやマンハッタンビーチに生活基盤を作ったロシア語を話すユダヤ人(Russian-speaking Jews)、ここ数十年の内にニューヨークに来た小規模コミュニティ「エチオピア系ユダヤ人(Ethiopian Jews)」や、マンハッタンやブルックリン、クイーンズに活発なコミュニティを構築する「イスラエル系アメリカ人(Israeli-Americans)」など、小さい様々なコミュニティが存在しています。

ただし、彼らの考えの根底にあるのは「ユダヤ教」です。古代から現代まで、虐げられ続け、世界に離散し生き延びてきた「ディアスポラ(Diaspora)」やホロコーストの歴史が、彼らの強い民族意識を高め、非常に強い「絆」を作り上げてきたのです。

世界最古の一神教の教えに従うユダヤ人

次に、ユダヤ教について見てみましょう。ユダヤ教は、3000年以上前に古代中東で誕生した世界最古の一神教のひとつです。全知全能で慈悲深い唯一の神への信仰、そして、倫理的な原則を根底に定める宗教として知られています。ユダヤの教えや律法は「トーラー(Torah)」という聖典に記され、また、そのトーラーを解釈・補足するためにラビが教えを記した「タルムード(Talmud)」などを生活の中心に据えて、正義、慈善、倫理的に生活しています。

全米ユダヤ人の約2割が暮らすニューヨーク都市圏

宗教、文化、民族として、もしくは自らをユダヤ人と認める人々を含めると、アメリカには約750万人のユダヤ人が生活しているとされています。この数は、アメリカ全人口3億4180万(2024年)の約2.2%を占めています。

The Jewish Chronicleによれば、ユダヤ人が多く住む全米都市トップ5は次の通りです。第1位はニューヨーク広域都市圏(ニューヨーク州)の140万人で、その次が第2位のロサンゼルス(カリフォルニア州)約70万人。そして3位はマイアミ(フロリダ州)約50万人、4位シカゴ(イリノイ州)約30万人、5位フィラデルフィア(ペンシルベニア州)約27万5000人と続きます。ここ30年間、ニューヨーク広域都市圏が、アメリカ国内で最大のユダヤ人コミュニティとしてその地位を確保しています。

政治、経済、ビジネス、文化、そして国際社会への大きな影響力

ニューヨーク広域都市圏のユダヤ人口は、その調査対象の範囲や方法論によって結果が異なりますが、主な推定値は以下の通りです。

  • 140万人:2023年に発表されたUJA-Federation of New Yorkの調査によると、ニューヨーク市の5つの行政区とナッソー郡、サフォーク郡、ウェストチェスター郡を含むニューヨーク広域都市圏には、約140万人がユダヤ人として認識されています。(The Jewish Chronicle)
  • 190万人:ブランダイス大学(Brandeis University)が2020年に発表した報告書では、ニューヨーク大都市圏(ニュージャージー州の一部を含む)には190万人以上のユダヤ人が住んでおり、その割合は、アメリカ全体のユダヤ人人口の約25%を占めています。(Brandeis University)
  • 210万人Berman Jewish DataBankによる2021年の報告書では、ニューヨーク市大都市圏には約210万9300人のユダヤ人が住み、この地域の総人口の約10.8%を占めているとされています。

ニューヨーク・アナトミアでは、UJA-Federation of New Yorkの調査結果140万人という数字を採用していますが、上記の数字から、政治、経済、ビジネス、文化、そして国際社会などの様々なシーンで、彼らの行動や声が大きな影響を与えていることが理解できるのではないでしょうか。

ニューヨークシティ全体の約11.6%がユダヤ人

ニューヨークには多種多様な人種が暮らし、その様子を「人種の坩堝」という言葉で表現することも珍しくありません。ニューヨーク市の人口は約826万人(2023年時点)。そして、この中でも市全体の約11.6%を占める約96万人がユダヤ人とされ、その内約半数の約43万人(大人24万9000人と子供18万1000人)の「正統派ユダヤ人」が、ニューヨーク市内、特にブルックリン地区に集中して居住しています。彼らの内、推定1万3000人がホロコースト生存者とのことです。(UJA Federation New York

とはいえ、ユダヤ人とはいっても外見からすぐに判断できる超正統派から、街で会ってもユダヤ人と特定しづらい人々まで様々です。ここでは、アメリカの金融界やメディア界を取り仕切りアメリカ経済を動かすユダヤ社会というよりも、一部のエリアで、聖典の教えに厳格に従い生活するユダヤ教コミュニティにフォーカスしていきます。

ユダヤ人が暮らす主なNYの主要エリア

マンハッタン(Manhattan)
  • アッパー・ウエスト・サイド(Upper West Side)
    保守派、改革派、モダン・オーソドックスが共存する活気ある地域。
  • ロウアー・イースト・サイド(Lower East Side)
    アシュケナジ系の歴史的な地区。
  • アッパー・イースト・サイド(Upper East Side)
    富裕層が多く、保守派や改革派が中心。
ブルックリン(Brooklyn)
  • ウィリアムズバーグ(Williamsburg)
    サトマール派ハシディズムが支配的。
  • クラウンハイツ(Crown Heights)
    ハバッド・ルバヴィッチの本部があり、多様なユダヤ人コミュニティが存在。
  • ボロー・パークとフラットブッシュ(Borough Park and Flatbush)
    ハレディとモダン・オーソドックスの密集地帯。
  • ブライトンビーチ(Brighton Beach)
    ロシア語を話すユダヤ人コミュニティが多い。
  • サンセットパーク(Sunset Park)
    発展中のユダヤ人コミュニティの拠点。特に「Chabad Sunset Park(ハバッド・サンセットパーク)」を中心に活動が行われている。
クイーンズ(Queens)
  • フォレストヒルズとキューガーデンズ(Forest Hills and Kew Gardens)
    保守派、正統派、ブハラ系ユダヤ人の混在。
ブロンクスとスタテンアイランド(Bronx and Staten Island)
  • 小規模ながら正統派と保守派のコミュニティが存在。
ロングアイランドとウェストチェスター(Long Island and Westchester)
  • 改革派と保守派が強い郊外のユダヤ人地域。

超正統派ユダヤ教徒「ハレディ」、その最大勢力「ハシディック」

ここで、ユダヤ教の派閥を大きく5つに分類して解説してみます。

1. 正統派ユダヤ教(Orthodox Judaism)

  • モダン・オーソドックス(Modern Orthodox): ユダヤ法(ハラカhalacha)を遵守しつつ、現代社会や職業とも積極的に関わることを信条としているグループです。
  • ハレディ(超正統派、Haredi):ユダヤ法を厳格に守ることに重点を置くグループです。以下のようなサブグループに分けることができます。
    • ハシディック(Hasidic): サトマール派(Satmar)、ハバッド・ルバヴィッチ派(Chabad-Lubavitch)、ボボフ派(Bobov)、スクヴェア派(Skver)などを含むグループです。神秘的な伝統、独特の服装、カリスマ的なリーダーシップ (ラビ)の存在で知られています。主にブルックリンのウィリアムズバーグ、クラウンハイツ、ボロー・パークに生活基盤を置いています。
    • イェシヴィッシュ(Yeshivish)またはリトアニア系:知的なトーラー(Torah)の研究とラビによるリーダーシップを重視する、非ハシディズム派のコミュニティです。ブルックリンのフラットブッシュなどに多く暮らしています。
    • セファルディム派ハレディム(Sephardic Haredim):中東または北アフリカ出身で、伝統的な慣習とハレディ派の規範を融合しています。違いはあるものの、超正統派ユダヤ教徒は、ユダヤ教の信仰とアイデンティティを伝統的な形で保存するという共通コミットメントを持っています。

2. 保守派ユダヤ教(Conservative Judaism)

  • 伝統と現代性のバランスを取り、現代的な価値観に適応する形でユダヤ法を解釈する一派です。マンハッタンやクイーンズに集中しています。

3. 改革派ユダヤ教(Reform Judaism)

  • 個人の判断でユダヤの伝統を現代生活に合わせて解釈することを重視しています。マンハッタンや郊外地域に多く見られます。

4. 再建派およびリニューアル派ユダヤ教(Reconstructionist and Renewal Judaism)

  • 包摂性と男女平等を強調した、進歩的なユダヤ精神や実践に焦点を当てるグループです。

5. 世俗派および人文主義的ユダヤ教(Secular and Humanistic Judaism)

  • 宗教的な実践を行わず、文化的および倫理的なユダヤ人としてのアイデンティティを大切にする一派です。イディッシュ文化やイスラエル遺産と結びつくことが多いグループです。

約20万人のハシディックが暮らす街

現代のユダヤ教の宗派は、正統派(超正統派含む)、保守派、改革派、再建派などの分派に分かれ、それぞれの信念に基づいた暮らしをしています。中でも、最も聖書に忠実な生活を心がけるハレディ(超正統派)と呼ばれるグループがあります。ブルックリンのウィリアムズバーグやクラウンハイツ、ボローパークなどでコミュニティを作っているのが彼らで、その超正統派ハレディ派ユダヤ教の中の最大勢力が「ハシディック(Hasidic)」です。

超正統派ハレディ派ユダヤ教には、他にも、リトアニア派(イェシーバー派)ユダヤ教、セファルディ派ハレディユダヤ教、そしていくつかの異なるハシディズム派王朝(ハバッド、サトマール、ベルズ、ゲルなど)など数多くのグループが存在します。各グループは、厳格な宗教的実践とトーラー学習を共通の基盤としているものの、それぞれの習慣、指導体制、伝統において異なる特徴を持っているのです。

ブルックリンの各エリアに集中

アメリカで暮らすハシディックの正確な人数を推定するのは難しいですが、2016年の調査によれば、アメリカには約5万3485戸のハシディズム家庭が存在するとされています。1世帯あたりの平均人数を5~6人と仮定すれば、総人口は約26万7425~32万910人となります。

さらに、2022年のAssociated Pressの報道によれば、ニューヨーク市には約20万人のハシディックが生活し、同市のユダヤ人コミュニティの中でも存在感を高めています。その多くが、ブルックリンのウィリアムズバーグ、ボロパーク、クラウンハイツなどの地区に暮らし、例えば、ウィリアムズバーグの「サトマール派(Satmar)」コミュニティには、約5万7000人が属していると言われています。

超正統派「ハレディ」の基本的なライフスタイル

市全体の約11.6%を占めるユダヤ人ですが、ニューヨークで生活していると、黒のスーツに白シャツ、つばの広い黒の帽子、そして異常に長いもみあげという、特徴ある外見をしたグループを見かけたことがあるかもしれません。彼らも、超正統派のユダヤ教徒「ハレディ(Haredi)」に属するユダヤ人であるかもしれません。

ハレディは、ユダヤ法である「ハラハー(Halacha)」と伝統を厳格に解釈して遵守し、非常に信心深いユダヤ教徒グループとして知られています。彼らのライフスタイルは、ユダヤの習慣の保存、世俗社会からの分離、トーラー(Torah)研究への熱心な取り組みであり、それらが彼らの生活に深く根付いています。多くのハレディ派の男性はフルタイムで宗教の勉強に専念し、コミュニティ内で働く人もいます。また、女性は家族を経済的に支えるために働きますが、一般的には、女性は世俗的な娯楽やメディアを避け、宗教的な目的に役立たない限り、現代のテクノロジーに触れる機会を制限しようと努めています。

「トーラー」「ハラハー」「タルムード」などが基盤

ハレディ派のコミュニティでは、彼らの宗教観を重視した私立学校を独自で運営しています。男子はイェシーバー(yeshivas)という宗教学校で、聖典「トーラー(Torah)」と「宗教的典範タルムード(Talmud)」を学びます。そして女子は、ユダヤ教の価値観と家事スキルに重きを置いた学校で教育を受けます。また、彼らは、食事に関する規則「カシュルート(kashrut)」、安息日の遵守、慎み深さなど、生活のあらゆる面においてユダヤ法を厳格に遵守しています。また、「シナゴーグ(synagogue)」と呼ばれる礼拝所で毎日祈りを捧げ、こうしたことが、彼らの日課の非常に重要な部分となっているのです。

ラビが認証し、ユダヤ法のもと収穫・生産された食事

ユダヤ教徒は、食事に関しても聖典トーラーやタルムード、ラビの解釈に従い、そこに書かれた、食べて良いもの、食べてはいけないものを厳格に守った生活を信条とします。これらは「コーシャー(Kosher)」と呼ばれ、ユダヤ教の指導者であるラビが認証し、ユダヤ法のもと収穫および生産された食事とされています。

例えば、割れたひづめを持ち、反芻する動物(例:牛、羊、ヤギ)は食べることが許されており、豚肉やうさぎ、甲殻類、貝類などは口にすることが禁止されています。他にもハゲタカや猛禽類などの鳥類も禁じられています。屠殺の方法も決められており、訓練を受け承認されたユダヤ人の屠殺者ショヘット(shochet)によって、シェヒタ(shechita)と呼ばれる特定の方法で屠殺処理されていなければなりません。血を完全に抜き、特定の脂肪や静脈を取り除き、屠殺時に祈りや祝福を唱える必要はありませんが、調理過程での祝福は重要とされています。

「肉」、「乳製品」、「パラブ」

コーシャーフードは、主に「肉」、「乳製品」、肉や乳製品やその成分を含まない食べ物「パラブ」の3つに分けられています。肉と乳製品は、保管も調理も別々に行われ、肉は調理前に完全に血抜きをし、一緒に食べてはいけないなどの規制もあります。また、肉と乳製品を混ぜたり、一緒に摂取することは禁止されており、肉と乳製品用に別々の調理器具や調理エリアが必要となります。

アルコールについても、コーシャ認証を受けたものの摂取は許可されています。ワインなどのブドウ製品は、製造過程をラビが監督したものは認められており、一般的に、ラビの権威による認証を受け、認証団体によるOU(Orthodox Union)、K(Kof-K)などのコーシャマークが付けられたもののみ口にすることが認められています。コーシャーフードとはいえ、味が違うこともありません。コーシャーソルト(塩)などは、最も一般的な食材です。

このように、宗教的基準を維持することを重要視し、外部の影響を避けるために、緊密な結びつきのある自己完結型のコミュニティを作っているのが超正統派と呼ばれる人たちなのです。彼らは、家族生活を中心的な価値観に置き、大家族で暮らしていく。こうした、質素でありながらもごく当たり前の生活を守り抜いているのです。

政治的・社会的派閥による分類

ユダヤ教は、政治的・社会的派閥などで分類されることもあります。ここでは、その分類にも触れておきましょう。

まずはじめに、「進歩的なユダヤ人(Progressive Jews)」が挙げられます。彼らは、社会正義運動、リベラルな政治、ティクン・オラム(世界の修復)の理念に関連することが多いグループです。多くが改革派や世俗派と結びついている傾向にあります。

次に「保守派・右派傾向のユダヤ人(Conservative/Right-leaning Jews)」があります。モダン・オーソドックスやハレディ、ロシア系ユダヤ人の一部が含まれ、イスラエルや宗教の自由に関する問題に重点を置いています。

3つ目が、「シオニズム運動(Zionist Movements)」です。宗教的シオニズム Zionism(宗教的な祖国としてのイスラエル支持)から進歩的シオニズム(平和と共存の推進)まで幅広い考えを持っています。

そして最後に挙げられるのが、「反シオニズムまたは非シオニズム派(Anti-Zionist or Non-Zionist Jews)」です。サトマール派ハシディズムや一部の世俗派・進歩派ユダヤ人が含まれ、シオニズムに反対または批判的な一派です。

なかなか全てを理解することが難しいユダヤ教やその文化ですが、分からないと放置してしまうのではなく、理解しお互いを尊重しながら共存していく。そんな考え方を持つことがこれからの世界には必要なのではないでしょうか。


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