世界有数のマラソン大会「ニューヨークシティマラソン(NYCマラソン)」。毎年11月第1日曜日に開催され、今年2024年は11月3日(日)に行われました。まず、ニューヨークの5ボロを走る抜ける刺激的なコース。さらに、様々な要素が、世界中のランナーの心を惹きつけています。今回は、このNYCマラソンについて見ていきましょう。
NYCマラソンの始まりは、セントラルパーク内から
NYCマラソンは、1970年にフレッド・レボウ(Fred Lebow)とビンス・チアペッタ(Vince Chiappetta)の2人によって設立されました。はじめは、セントラルパーク内で行われる小さなイベントの一つに過ぎませんでした。最初の参加者は127人で、そのうちの55人が完走しています。しかし、その後徐々に人気となり、1976年から5区すべてを走るようになりました。
ランナーは、スタート地点であるスタテンアイランドに集合。まずは、ベラザノブリッジ(Verrazzano-Narrows Bridge)を渡ります。そして、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクスに渡ります。そこからをフィニッシュラインがあるマンハッタンのセントラルパークを目指します。今では大人気のマラソン大会で、トップランナーや有名人も参加する世界的イベントです。26.2マイルの間、変わりゆくNYの街並みを感じなが走る。レース前後には、パレードやフィニッシャー・フェスティバルなどもある楽しいイベントです。
沿道からの声援や音楽も楽しむ
時には、足が止まってしまいそうになることもあるでしょう。しかし、沿道からの音楽、ハイタッチを求める子どもの声援が疲れを癒してくれます。それらが、まだ走れる、頑張れるというエネルギー源に変わるのです。楽器を鳴らしてライブ演奏する人、大音量でロック音楽を流す人もいます。そんな賑やかなスポットで応援するのもオススメです。
マンハッタン内は人気の応援スポットがたくさんあります。特に、セントラルパークの南側、クイーンズボロブリッジの袂は人気です。また、友人や家族であれば、オンラインでランナーを追跡することもできます。他にも、2020年から始まった仮想オプションで一緒に走るのも良いかもしれません。NYCマラソンは、グローバルコミュニティと繋がるイベントへと進化を続けています。
ランナーだけではない、イベントの立役者
NYCマラソンには、毎年10万人以上の応募します。そのうち5万人以上がゴールする世界最大規模のマラソン大会です。ランナーの他にも、何千人ものボランティア、警備員、医療スタッフ。さらに沿道で応援する熱狂的な観客など、その参加者は膨大な数になりす。また、ランナーをスタート地点まで運ぶバスや、清掃車、物流システムなど。イベント運営をスムーズにするために、それを支えるサポーターが存在しているのです。
しかし、NYCマラソン運営には大きな課題も残っています。まず一つめは、ロジスティクスの問題です。5万人以上が参加するレースで必要となる大量の人や物資を運ぶこと。さらに、そこを訪れる数百万人の観客の安全を守ること。そのためには、厳密なセキュリティチェックや監視が必要になります。予算を管理し、最大限の成果を上げる必要があるのです。
課題を克服しながら、より良い大会に
また、レース参加者が廃棄した空の水筒やエナジードリンクの廃棄物の問題もあります。ヒートシートや衣料品などの不用品も溢れています。それに対し、主催者は、リサイクル、堆肥化、ランナーが再利用可能な水分補給システムの活用を奨励するなど、持続可能性に向けた措置を講じています。
他にも、給水ブースの他にも、仮設トイレ設置の問題があります。さらに、脱水や疲労など健康的な問題に対応する医療テント確保の問題。数多くのボランティアの統制など、課題が尽きる事はありません。こうしたサポート体制が、安全で楽しいマラソン大会を支えてくれています。
一方、参加枠制限や費用の高さに対する批判もあります。参加費が高く、低所得は参加しにくいという声が上がっているのです。多くの人がランナーとして、観戦者としてNYCマラソンを愛しています。ニューヨークの5つの区を走り抜け、数百万の観客の声援を受けながらゴールする。これは、ニューヨークの懐の広さを感じさせてくれる貴重な体験の一つになるはずです。
NYCマラソンに参加する
それでは、実際にNYCマラソンを走るにはどうしたら良いか見ていきます。参加枠の獲得には、参加希望者の住む場所や環境によって方法や値段が異なります。
抽選システム
まず、アメリカ国内外全ての応募者向けの方法です。毎年、NYCマラソン参加のための抽選が行われています。これは通常、春の早い時期の限られた期間だけに行われます。ランダムな選考で参加者が決められます。しかし、需要が多く、抽選の競争率も高いため、当選確率はとても低いものとなります。
タイム資格
次に、「タイム資格」があります。年齢と性別に応じたタイム基準を満たすことで、参加資格を得られます。詳細は、NYCマラソンの公式サイトで確認できます。これらの基準タイムで、フルまたはハーフマラソンを完走しなければなりません。もちろんタイム資格枠にも限りがありますので、早めの申し込みが必要です。
チャリティプログラム
3つ目となるのは、チャリティプログラム枠です。多くのランナーが、この公式チャリティパートナーの募金活動を通じて参加しています。チャリティプログラムでは、通常2,500ドルから5,000ドルの募金が必要です。これらは、指定のチャリティへ寄付されることになります。そして、募金目標を達成すると確実に参加枠を得られます。そのため、特定の支援活動に熱心で、募金活動に自信がある方にはオススメの方法です。
海外旅行パッケージ
次は、アメリカ国外ランナーにとって最も堅実な方法です。マラソン参加枠を含む旅行パッケージを提供するツアー会社があります。費用は高めとなってしまいますが、その手軽さもあり人気です。移動手段やガイドツアー、レース前のイベントなどの特典が含まれます。例年、日本からも多くのランナーがこのツアーを利用して参加しています。
NYRRメンバーのための確定エントリー
さらに、ニューヨークロードランナーズ(NYRR)の「9+1」プログラム活用があります。これは、前年に、指定のNYRRレースを9回完走し、1回ボランティアとして参加すれば資格を得られるというものです。現実的には、地元のランナー向けのオプションです。人気のオプションとなり、条件となるNYRRのレースに定期的に参加するランナーが増えています。
バーチャルTCSニューヨークシティマラソン
最後にご紹介するのが、バーチャルで参加です。2020年以降に導入され、ニューヨークに行けないランナー向けのオプションです。レースにバーチャルで参加できるようになりました。自分の選んだ地元コースで、26.2マイルを一定期間内に走り切れば完走となります。ニューヨーク現地の臨場感は味わえませんが、一体感を感じながら走ることができます。しかし、残念ながら将来の参加資格には含まれません。
NYCマラソンの参加費用は状況によって変わる
NYCマラソンの公式参加料は、ランナーの居住状況によって変わってきます。海外からの参加の場合は、少し高めになってしましまいます。
NYRR(ニューヨークロードランナー)メンバーの場合
料金は約295ドル(153ドルで計算、約4万5550円)です。
非会員(米国居住者)の場合
料金は約358ドル(153ドルで計算、5万5270円)です。
国際ランナー向け:
料金は約398ドル(153ドルで計算、6万1450円)です。
ランナーは入場料に加え、抽選時に返金不可の申請処理手数料も支払う必要があります。通常11ドル前後(153ドルで計算、1700円)です。そして、チャリティおよび海外旅行パッケージの対象者は、別途費用がかかります。これら料金には、一般的に水分補給や栄養、医療サポートなどが含まれています。また、完走者のメダル、レース当日の輸送、アメニティなども入っています。
NYCマラソンのコースについて
NYCマラソンはスタテンを出発し、5つのボロを経てセントラルパークがゴールです。コースには起伏があり、セントラルパークを通る最終数マイルは難所です。初心者にもベテランランナーにも、非常に難易度の高いコースとされています。
また、非常に多くのランナーが参加するため、混雑の中で走ることになります。特に、序盤や、橋の狭いエリアでは非常に混み合います。そのため、自己ベストを目指すランナーにとっては、ペース配分が掴みにくい大会です。加えて、11月のニューヨークの天候は予測が難しく、気温にも幅があります。そのため、服装や装備にも考慮が必要です。過去の大会では、大雨や強風に見舞われた年もありました。
NYCマラソンは競技としてだけでなく、忍耐と団結を感じるイベントです。もちろん、肉体的、精神的な辛さもあります。しかし、ほとんどのランナーにとっては、非常にやりがいのある体験となるはずです。そのため、リピーターとして毎年参加している人が多いのも特徴の一つです。まず、参加を決意した方は、複数のエントリー方法を活用してみてください。そして、スタートラインに立つ可能性を広めてみてください!
アメリカ国内で有名な他のマラソン大会
アメリカ国内、世界各国でも、たくさんのマラソン大会が開催されています。
ボストンマラソン(Boston, MA)
毎年4月、愛国者の日(Patriots’ Day)にボストンで開催される大会です。1897年に第1回目の大会が行われました。毎年恒例のマラソン大会においては、世界最古のレースです。悪名高い「ハートブレイクヒル」を含む挑戦的なコースです。世界中からエリートランナーとアマチュアランナーが集まります。フィニッシュライン「ボイルストン・ストリート」は、ベテランランナーにも人気です。
シカゴマラソン(Chicago, IL)
毎年10月に開催されているのが、シカゴマラソンです。市内のダウンタウンや、フラットで速いコースで知られています。個人ベストや世界記録を試すのに最適なコースとされています。そして、ランナーたちが憧れる世界マラソン6大大会の1つに数えられています。熱狂的な群衆サポート、そして美しい街並みが人気のマラソン大会の一つです。
ロサンゼルスマラソン(Los Angeles, CA)
ドジャースタジアムからサンタモニカピアまでを走る、3月開催のマラソン大会です。この大会は、ロサンゼルスのランドマーク、美しい海岸線を楽しめるコースです。
ホノルルマラソン(Honolulu, HI)
毎年12月に開催されるホノルルマラソン。ハワイの海岸線に沿って風光明媚なコースを走ります。リラックスした雰囲気の中、世界中からランナーが集まります。時間制限がないことでも有名です。そのため、初心者ランナーも優しく歓迎する雰囲気を持っています。
海兵隊(Marine Corps)マラソン(Washington D.C.)
「ピープルズマラソン(The People’s Marathon)」としても知られているこのレースは、賞金の提供は行わず、主要マラソンの中でもユニークな立場です。10月に開催され、軍人にも民間人にも人気のレースで、D.C.の有名なモニュメントなどを見ながらレースを楽しめます。
世界の主要なマラソン
ワールドマラソンメジャーズ(World’s Major Marathons)
次は、世界に目を向けてみます。まず初めに、ワールドマラソンメジャーズは、世界で最も名誉ある6つのマラソン大会です。
・ニューヨークシティマラソン(アメリカ)
・ボストンマラソン(アメリカ)
・ロンドンマラソン(イギリス)
・シカゴマラソン(アメリカ)
・ベルリンマラソン(ドイツ)
・東京マラソン(日本)
その歴史、名声、競争の激しさから、ニューヨークシティマラソン、ボストンマラソン、ロンドンマラソンを「ビッグスリー」と呼ぶ人もいます。しかし、通常はこれに、シカゴ、ベルリン、東京を加えた6大会を「ワールドマラソンメジャーズシリーズ」と呼びます。この6つすべてのレースを完走したランナーは、「シックススター・フィニッシャー「The “Abbott World Marathon Majors” Six-Star Finishers」と認定され崇められます。これは、マラソン愛好家にとって非常に大きな名誉となっています。
ワールドマラソンメジャー以外の著名なグローバルマラソン
パリマラソン(フランス)
4月のこのマラソンは、エッフェル塔やアークデトリオンフなど、風光明媚なパリのランドマークなどを眺めながら走ることができます。
アムステルダムマラソン(オランダ)
フラットなコースと10月の涼しい天気で知られるアムステルダム・マラソン。自己記録の更新に最適であり、ヨーロッパでも人気のマラソンです。
アテネマラソン(ギリシャ)
「本物のマラソン」として知られるレース。マラソンからアテネまでの伝説的なルートに続き、マラソンイベントの起源を追うレースとなります。
同志たちの(Comrades)マラソン(南アフリカ)
技術的にはウルトラマラソンです。約90キロメートル(56マイル)をカバーする有名な長距離イベントです。激しいコースを走る、持久力レースとしての歴史を持っています。
ビッグサー(Big Sur)国際マラソン(アメリカ、カリフォルニア)
カリフォルニアのハイウェイ1号線に沿って開催されるレースです。太平洋の岩壁と息をのむような絶景を見ながら走るマラソン大会です。ビッグサーが、世界で最も風光明媚なマラソンという人もいます。
他の注目すべきマラソンと挑戦
セブン大陸・マラソンクラブ(Seven Continents Marathon Club)
このクラブは、南極を含む7つの大陸のそれぞれでマラソン完走を目指します。南極アイスマラソンや中国の万里の長城マラソンなどがあります。
世界で最もタフなマラソン
サハラ砂漠のマラソン・デ・サブル(Marathon des Sables)や、マチュピチュへのインカ・トレイル・マラソン(the Inca Trail Marathon)などは、極端な地形と高度との戦いになります。通常は、究極の持久力テストに挑戦してみたい人向けの、アドベンチャーマラソンです。
これらのマラソンを走り、アスリートたちは自らの持久力を試しています。それだけではなく、各都市のエネルギーや文化を同時に体験することもできるのです。各マラソンには、独特な雰囲気、コースの特性、課題がありますが、世界中のランナーたちが、生きているうちに自分がやりたいことを書き出したリスト「バケットリストレース」に一つずつ書き込むようなイベントなのです。
市民ランナーの目標「サブフォー」とは?
多くの市民ランナーが目指す指標の一つに、「サブフォー」というものがあります。これは、フルマラソン大会で42.195kmを4時間未満で完走することを意味します。 サブフォーは決して簡単ではないかもしれませんが、1kmを5分40秒以上のペースで走るためのトレーニングを積めば、誰でも達成できる目標なのです。ランナーとしてデビューしたのであれば、ぜひ目指してみてください!
2024年、世界のトップマラソンランナー
2024年現在、最近の大会で優れた結果を収めている世界のトップマラソンランナーたちをご紹介します。エントリーフィー(海外ランナー向けの料金は高め)に加えて、渡航費、宿泊費、食事代が必要となることが一般的です。しかし、完走メダルやTシャツ、様々なイベントへのアクセスが提供される特典もあります。
男子トップランナー:
- タミラト・トラ(Tamirat Tola)(エチオピア)
2023年のニューヨークシティマラソンで、2時間04分58秒のコース記録を樹立。パリ五輪で金メダルを獲得しています。トラは、マラソン界で依然として圧倒的な存在です。 - エバンス・チェベット(Evans Chebet)(ケニア)
2回のボストンマラソン優勝経験があります。自己ベストは2時間03分00秒と、世界屈指の高速ランナーとして知られています。 - バシール・アブディ(Bashir Abdi)(ベルギー)
パリ五輪で銀メダルを獲得。東京五輪と2022年世界選手権でもメダルを獲得している実力者です。世界のエリートランナーとして名を馳せています。
女子トップランナー:
- ヘレン・オビリ(Hellen Obiri)(ケニア)
2023年にボストンとニューヨークシティマラソンの両方で優勝。30数年ぶりにこの偉業を成し遂げました。現在も各地でタイトルを防衛し、表彰台に上がり続けています。 - シーラ・チェプキルイ(Sheila Chepkirui)(ケニア)
自己ベスト2時間17分29秒を誇り、現在最速の女子マラソン選手の一人です。各国のエリートレースに参加し注目を集めています。 - ティルネシュ・ディババ(Tirunesh Dibaba)(エチオピア)
3度のオリンピックチャンピオンです。長距離走で数々の実績を誇るディババは、最近マラソンに注力し始め、ニューヨークシティマラソンなどでデビューを果たしました。
こうしたマラソン界での頂点に立ち、注目を集めているトップランナーの参加する大会に注目し、彼らの走りを追ってみるのも楽しいですよね。
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