〜トモエ・フード・サービシーズ 酒井純平さん編〜
自宅でも美味しいステーキが食べたい!
上質の良いお肉が手に入った!自宅のグリルやBBQで、美味しくステーキを焼きたい!そんな方も多くいらっしゃるのではないでしょうか? でも、YouTubeでしっかりと調べたはずなのに、仕上がりに納得いかないい…。そんなことにならないよう、お肉の正しい選び方から焼き方のコツまでをお教えします。
お肉のプロフェッショナルに全てノウハウを教えてもらう〝29PRO〟シリーズ!今回は、焼き肉ふたごニューヨーク店の立ち上げや運営に関わり、現在は和牛などの卸肉業を営むトモエ・フード・サービシーズの営業マンとして活躍する、肉のプロフェッショナル酒井純平さんに「アメリカで、美味しいステーキ肉を選び、そして焼く方法」についてご伝授頂きましょう。
**********
1. お肉の選び方
まず、お肉選びは、〝リブアイ〟か〝ストリップロイン〟であれば間違いはありません。次に、USDAプライムグレード(PRIME GRADE)のお肉を選べればベストです。でも、一般のスーパーではあまり見かけないですよね。そんな時は、少なくともUSDAチョイスグレード(CHOICE GRADE)以上のお肉を選びましょう。ちなみに、COSTCO(コスコ)のお肉は実はクオリティが高く、プライムグレードの肉も簡単に見つかります。好みにもよりますが、肉の中心あたりに、ほどよいマーブリング(サシ)の入っているものを選ぶのがポイントです。
鮮やかな赤色をしたお肉を選ぶ
色は鮮やかな赤色のもの一択です。くすんだ色をしたお肉は決して選ばないでください。お肉は元々空気に触れていません。つまり、真空パックに入った状態では発色しません。まず、肉屋でステーキカットにする時、はじめて肉と酸素が化学反応を起こし赤く発色します。次に、しばらくすると酸化が進み、鮮やかさが失われ黒ずんでいきます。そして、もう一つのポイントは陳列棚のライトです。このライトは、お肉を美味しく見せるための魔法の光です。一方で、よく見え過ぎるので、必ず一度手に取り違う光源で色味を確かめてください。
ドリップが出ている=旨味が失われている
さて、次のポイントは、パック内にドリップ(肉の内部から分離して滲み出る液体)がないか。もちろん、出ていないものを選んでください。「ドリップが出ている=旨味が失われている」ということです。個人的には、Target(ターゲット)などにある真空パックのお肉もオススメです。酸化することもなく日持ちもします。ウエットエイジングとは似て非なるものです。ただ、真空状態下での冷蔵によって少しずつ熟成されたような感じになります。
次に、ステーキに関しては、冷凍で保管、販売されているものは絶対に避けてください。陳列された状態で、すでに冷凍・解凍が繰り返されている可能性が高いためです。凍る時の結晶が肉の細胞を傷つけ、そこからドリップが出ます。2フローズンでお肉の旨味はほぼ抜け落ちます。それは赤身肉であればなおさら顕著ですので注意が必要です。
お肉のベストな保管方法と
お肉は、賞味期限内に食べ切ってしまうのがベストです。でも、もし大量に購入し冷凍保管の必要があれば、下記の要領でも問題ありません。もちろん、家庭用冷蔵庫の冷凍室で大丈夫です。
① 表面の水分をしっかり取る
まずはじめに、表面の水分をしっかりと取ってください。そして、できるだけ空気が入らないように密着させてラップをします。できれば二重にラップするようにしてください。
② 真空状態にする
さらにジップロックに入れ、極力お肉を保護するようにしてください。真空にすることで「冷凍焼け」を防ぐことができます。
③ できる限り早く冷凍状態にする
さらに、よりこだわるのであれば、熱伝導率の良いアルミのトレイなどに乗せてください。できる限り早く冷凍状態に持っていくことがます。これがお肉を美味しく保つ秘訣です。食肉業者にある冷凍庫とは異なり、家庭の冷凍庫は緩慢冷凍でゆっくりと冷凍します。その段階でできる氷の大きな結晶が肉の細胞を傷つけてしまうのです。
④ 調理する際に冷蔵庫に移動し、ゆっくりと解凍する
次に重要となるのは、解凍です。解凍は、冷蔵庫でゆっくりと時間をかけて解凍するのがベストです。お肉を食べる前日の夜か当日の朝に、冷凍庫から冷蔵庫に移して解凍を始めます。常温解凍は絶対にNGと覚えましょう。解凍前の温度と解凍時の温度が開けば開くほどドリップが出ます。そこで、お肉の品質が劣化してしまうからです。
そのため、冷凍庫からまず冷蔵庫に移し、じっくり解凍することを心掛けてください。できれば24時間、最低でも12時間ぐらいは解凍時間にあてましょう。これは、美味しいステーキを食べるためにも、非常に大事なポイントとなります。摂氏0度に近い状態で解凍できていれば、ドリップは比較的少なく抑えられるはずです。
ステーキを焼く ゆっくり、じっくり
まずは常温に戻すこと
それでは、ステーキを焼いていきましょう。まず、解凍したお肉は、焼く前に必ず常温に戻すことを忘れないでください。冷蔵庫から出し、冷たいままのお肉をすぐに強火で焼くと一気に硬くなってしまいます。もちろん調理法でも対応可能ですが、この「常温に戻す」ポイントも大切です。基本的には、冷蔵庫から出し、その時の気温とステーキの厚さを見て、30分から1時間ほどで常温に戻します。温度変化の差が少なければ少ないほど、お肉に余計なストレスは加わりません。ここで、お肉の収縮硬化を防ぐことができます。
味付けは塩のみ
次に、味付けのポイントですが、常温に戻す過程で、下味程度の塩を振りましょう。「水気と一緒に旨みが出てしまう」「肉が硬くなってしまう」と、下味否定派もいますよね。ただ、ある程度の塩味が、ステーキの旨みを引き出すと私は思っています。目安は、USDAプライムなら、お肉の重量に対して1%ぐらいです。350グラム(12オンス)のお肉であれば大体3.5グラムぐらいでしょうか。一方で、焼く前の胡椒はあまりお勧めできません。胡椒は粒が粗いため、焼いていく過程でフライパン上で焦げてしまうからです。もし、胡椒のフレーバーが欲しいのであれば、食べる直前の胡椒がベストです。
「ゆっくりと火入れする」が基本
さて、ステーキを焼く際の火加減ですが、基本的にはずっと中火でOKです。美味しいステーキの焼き方で最も大切なのは、「ゆっくりと火入れすること」です。非常に時間がかかる面倒な作業です。しかし、ゆっくり火入れしたステーキと急いで焼いたステーキでは、同じお肉でも、味わいも、硬さも、食感も、全く別物となります。
① 30秒から1分程度、中火で肉を焼く
まず、中火で熱したフライパンの中央にお肉を置きます。片面30秒から1分(時間は厚さによる)焼いてひっくり返し、両面を焼く。厚いお肉であれば、両面に加えて側面も同じ過程で必ず焼くようにしてください。ここである程度表面に焼き目を着けておかないと、横から肉汁が逃げてしまいます。ミディアムレアなら1分程度が丁度良いです。
② 火を止めて、肉を休ませる
次に、火を止めて、鉄板ではなく皿やバットやトレイ等の上にアルミホイルを敷く。肉を包んでお肉を2〜3分休ませます。イメージとしては、トレイなどの熱をステーキに伝える感じです。そこでじんわりと火入れが進んでいきます。「鉄板の上で焼く」という感覚は捨ててください。蓋をするか、もしくはアルミホイルに包んで休ませる。こうして、旨味をお肉全体的にうまく閉じ込める効果もあります。
③ 3、4セット繰り返す
上記を3、4セット繰り返します。ゆっくりと火入れすることで、じんわりとお肉に火を入れます。お肉自体がふんわり柔らかく焼けていきます。同時に、焼きムラなく、見た目にも美味しそうなステーキが仕上がります。
④ 強火でカリッとしたクラスト状態を作る
そして、最後のセットです。この時だけ強火にして表面にカリッとしたクラスト状態を作ります。メイラード反応と呼ばれるもので、これも旨味ポイントの一つです。片面を10秒程度でささっと強火で熱します。そして最後にもしっかり2、3分休ませます。ここでは、肉汁を中で落ち着かせる目的があります。焼きたてのお肉をすぐに切ると、肉汁が大量に漏れしてしまいますよね。シズル感があっていいのですが、それはつまり美味しさを逃がすということです。焼けたら2、3分休ませ、少し落ち着かせてからナイフを入れてみてください。
レア派も、じっくり
レアで食べたい派の人でも、強火で一気に焼くと失敗の元です。表面だけカリカリ茶色く、中には火が入らず冷たくグニュっとした食感になります。目指すのは、中は赤くても火がしっかり入り、まんべんなくロゼ色の最高のステーキ。食べ比べてみれば分かります。本来、そのお肉が持っている、旨味や香りを最大限引き出す焼き方をしましょう。同じお肉でも、その美味しさは何倍、何十倍にもなるはずです。
USプライム vs 和牛─焼き方の違い
それでは、USプライムと和牛では焼き方が違うのでしょうか? 基本的なスタイルは一緒です。ただし、赤身肉とサシの入ったお肉とでは、熱の伝わり方が全く違います。サシが多めの和牛の方が、早く焼けてしまうのです。「ゆっくり火入れ」が基本なのは変わりません。
USプライムなら4セット、和牛は3セットで良いかもしれないということです。その辺りは、お肉の厚さなどを見ながら調整してください。USプライムも、厚さによっては3回で良い状態になるかもしれません。少しミディアム感を出したい場合は、5回セットにしても良いでしょう。とにかく「ゆっくり、じっくり」がキーワードです。
料理は、化学反応
美味しいステーキを焼くには、とにかく手間と時間がかかります。色々な意見がありますので、これが正解というものはありません。ただ、料理というものは、熱を加えることでタンパク質が化学変化を起こしていくこと。料理の仕方一つで最後の味に差が出るのは頷けるでしょう。
アメリカに住んでいるのですから、やはり美味しいステーキが食べたい。BBQでも美味しいお肉が食べたいという気持ちは抑えられません。どこのステーキハウスでも、使っているお肉はプライムグレードのものです。もちろん、そこには、ドライエイジ熟成など、さらに美味しくする努力や工夫が加えられます。ただ、適切な焼き方さえマスターすれば、ご家庭でも美味しいステーキを食べられます。ぜひ次にステーキを焼く機会に、上記ポイントを押さえて焼いてみてください。家庭版ステーキのレベルが、グンっと上がるのを感じていただけるはずです。
コメント